ときわ書房 志津ステーションビル店

日野 剛広店長 インタビュー

 

 2018年3月21に開催された「志津でもっと本を楽しもう!」のトークイベントに登壇された日野店長。もっと話を聞きたいという声があったので、あらためてインタビューをお願いしました。

 ときわ書房志津ステーションビル店は、どんどん面白い本屋に変化しています。店長である日野さんの、書店員としての考え方を初めて伺うことができました。

初めて書店員を天職として考えるようになった

 

ー 日野店長は、あるときから書店員としての意識が変わったとおっしゃっていましたが、きっかけのようなものはあったのでしょうか。

 

日野 よく聞かれるのですが、劇的なエピソードがあった訳ではありません。色々なものが積み重なって、という感じです。

 前の店(ときわ書房八千代台店)に10年以上いたのですが、志津店に異動することになり、しかも前任の店長が非常にしっかりした人物ですので、その代わりを務めないといけない、これは大変なプレッシャーでした。

 その上、志津の土地勘がまったくない、佐倉というまちに思い入れもなにもない状態で赴任してきました。そんな心もとない状態であっという間に2年くらいが経ってしまい、その間に慣れないCDやコミックの担当も受け持たなければならず、今でも作業ばかりしていた記憶しかありません。

 しかし新しいスタッフも加わって、ちょっと余裕ができたという時期に、ふと、自分がなぜ書店員をやっているのだろうか?と、立ち止まって考えるようになったのです。劇的なことがあって何かが変わったということではなくて、それまでに蓄積されてきたことがあってのことだと思います。

 

ー 20年以上書店員をやられていたということは、この間の大きな変化を体験してこられているわけですね。

 

日野 そうですね。僕が入社した90年代のころは、まだまだ本が売れていた時期で、とにかく置けば売れるという時代でした。情報発信やお店を認知してもらうとか、そんな努力をしなくてもお客様が来てくれました。街に本屋があるのが当たり前だったように思います。しかし今は当たり前でなくなりました。こちらから情報発信をして認知をしてもらわないといけない時代に変わった、ということが一番大きいと思います。そしてとにかく今は売上が本当に厳しいのです。

 そんな状態で、このまま書店員を続けていくことに自信を失うこともあったのですが、年齢的にもつぶしがきかない。このまま書店員をまっとうするなら一から考え直さないといけないと思い、三年前から外に出て色々な店を見て回るようになりました。

そうする内に、本屋への興味を取り戻していきました。もっと言えば、就職してから初めて本屋という仕事を、自分の天職としてやっていこうと考え始めたのです。

 書店巡り自体は、それまでもやってはいたのです。ただ、会社や上司から見に行けと言われて行っても、やっぱり面白くない。自発的に見にいこうと思わないと書店巡りは絶対に楽しくありません。休みの日にまで本屋を見たくないよ、とまで思っていました。

 

ー 意識的に本屋巡りをされていたときの、本屋の選び方はどうしていたのですか。

 

日野 まずは有名店、それからメディアや情報誌などでここが面白いと取り上げられている店や、業界紙で業績が良いと紹介されている店をまわりました。3年前の秋と昨秋には京阪神の書店まで見に行きました。今年中に東海地区・名古屋方面を旅したいと思っています。

 

ー お店をまわって、具体的に何を変え始めたのでしょうか。

 

日野 まず基本的に陳列、品揃え、買いやすさ、接客など同じ職業としてチェックする項目は色々とあるのですが、そのうち個人店や個性的なお店を見に行く機会も増え、行ったお店の品揃え、やっていることを見て「こんなことやっていいんだ!」と新鮮な驚きを覚えました。

 それまで、内容や金額的にも敷居の高い人文図書や専門書、マニアックな品揃えはウチの店では避けてきました。リスクが高いと勝手に自主規制していたようなものです。しかし、そうした品揃えを平然と行ってグレードの高い棚、あるいはそうした選書がアクセントとなって棚に奥行きを与えている書店はいくらでもあって…。

 それから、今の世の中、ヘイトスピーチが平然とまかり通り、差別や分断がよりひどくなっていたりする。そうしたものを政治もメディアも正そうともせず、正確に報道もしない。当時から抱いていた社会への疑問、違和感でしたが、それに対して書店が出来ることは何か?ということまで、見て回った書店から教わったように思います。

 多様な声を拾い上げ、選択の幅を広げていくための場、切実な問題を解決するヒントがある場として、書店があるのではないかと思うようになりました。自分としてはマニアックな品揃えというよりも、切実な内容の書を揃えるという意識を持ち始めました。

  そしてツイッターを始めたことも大きいです。そこで目にした本の世界、本屋の世界、全国の書店員の皆さんの活躍は、考えていたよりもずっと深く広く、本屋の周辺にこんなに豊かな世界があることを初めて知ったのです。逆に今まで本当に何も知らずに生きてきたと痛感しました。書店員としては完全に死んでましたね。

 

ー 日野さんは佐倉城下町一箱古本市にも参加されましたね。

 

日野 お陰様でフォロワーさんも増え、地元の方ともたくさんの繋がりが出来まして、この佐倉でもこんなことをやっているのだと初めて知るわけです。それまで地域の外にばかり目がいっていて、地元に目を向けたことはなかった。そこから地元というものを意識するようになりました。

  様々な要素が自分のなかで重なって、本屋というものを一からやり直すつもりで、天職として考えてみようと思ったこと、志津や佐倉という地域に根差してやってみようと思ったこと。そうしたことが一気に自分の中で開花していきました。

ー トークイベントのときにおすすめとしてご紹介いただいた本を早速読んでみました。まず「幸福書房の四十年 ピカピカの本屋でなくちゃ!」(岩楯幸雄(著) 左右社)を、日野さんはどのように読まれましたか。

 

日野 まず、この幸福書房を知ったのは3年前でした。お店に行ってみて大変に感銘を受けました。決して広いとは言えない敷地なのに物足りなさがまったく感じられず、同時にムダが一切ない。何より本がとてもきれいな状態で購買欲をそそるのです。

当時、とにかく売れない外国文芸を、もう揃えるのを諦めようと思っていた矢先でしたが、幸福書房の品揃えを見て、諦める前にウチはちゃんとした棚づくりをしてこなかっただけだなと反省し、まだできることはあるなと思ったのです。

 

ー 日野さんが店舗で推している「ある奴隷少女に起こった出来事 」(ハリエット・アン ジェイコブズ (著) 堀越ゆき (翻訳) 新潮文庫)という本をときわ書房で買って読ませていただきました。読んだあと他の書店ではどこにこの本が置いてあるのかチェックするようになったのですが、大概は外国文学の棚に1冊入っているだけです。ときわ書房では大きく扱われていて、すでに100冊以上売られていますよね。

 

日野 それこそツイッターの影響ですね。全国の目利きの書店員さん達が今どういう本を推し、仕掛けているかがわかるようになり、そういう動きからすごく刺激を受けています。私も一発当てようと(笑)。

 それはともかく、あの本は発売されたときにピンとくるものがあったのですが、配本も少なく、追加もなかなか入ってこなかったのです。でも、この本をぜひ売っていきたいと思い、出版社に直談判して出庫してもらい、お店に並べてツイッターに上げたら、翻訳を担当された堀越ゆきさんよりお礼の言葉を頂戴しまして、POPまで送って下さいました。そうしたご縁もできましたので、どこかで堀越さんをお呼びしたいと思っています

ー 話を「幸福書房の四十年」に戻しますが、読んでみて、本を売るということはこういうことなのだと具体的にわかりました。

 

日野 そうなんです。私もこの本を読んで何か所もメモをとりました。本屋を営むための金言だとか至言だとか、そんな大げさなものじゃなく、非常に素朴な言葉で淡々と四十年間やってこられたことを実感として述べられていると思います。

 岩楯店長にお会いしましたが、本当にやさしいお人柄で、お店も岩楯店長の人柄がにじみ出ていたと思います。

 しかし、この本は同時に重い問題提起をはらんでいます。こんなに皆から愛された書店が、なぜ閉店しなければならなかったのか、ということを非常に考えさせられる本です。この本が投げかけている問題を重く受け止め、僕らは本屋を続けて行かなくてはなりません。

 

 悪いスパイラルに入ってしまうと本屋を維持するのが難しくなるということがこの本でよくわかりました。私がこの本で一番印象に残った一文は、「幸福書房の良さは、自らは何も語らないことだ」(p92)というところだったのですが、逆に言うとこれからの本屋が生き残るためには饒舌にならざるを得ない時代になったとも言えるのでしょうね。

 

日野 ある書店の店長さんと雑談をしていて「イベントや仕掛けもいいけれど、本当は武器を持たない本屋こそがまちには必要なんだ」と言っていました。今、本屋の武器として考えられるのは、カフェの併設、雑貨の取扱、イベント、SNS発信など、すでにどこでもやっている事ですが、ときわ書房は残念ながらすべてに遅れをとっているわけです。生き残りをかけて本以外のもので付加価値をつけるということを本屋が選択し始めたのがここ10年くらいの動きだろうと思います。

 まちの本屋が普通のたたずまいを維持していくことが残念ながらできなくなっているのだと思います。

 

ー トークでご紹介いただいたもう1冊が額賀澪さんの「拝啓、本が売れません」(額賀澪(著)ベストセラーズ)。この本はどうやったら本が売れるのかを考えていく内容ですね。

 

日野 作家側からの視点ですよね。作家自身がいろいろなところに突撃取材をしますが、それぞれの章でこうすれば売れるという事例はあっても、トータルとして明確な答えは出ていません。しかし、少なくとも額賀さんは作家の立場から売るためのノウハウ、なりふり構わない姿勢を掲示してくれたと思うし、巻末の実験的な試みは彼女の一つの回答となっています。本の売るために、まだまだできることがたくさんあるということだと思います。やっていないだけで。

 

ー 本をしっかり売るということの可能性がまだあるということですね。日野さんは個人で書店を経営されているわけではなく、雇われている店長ですよね。ツイッターで情報発信したり今回のイベントにも参加したりしていますが、社内的にはどう評価されているのですか。

 

日野 ウチの会社は現場に裁量を持たせてくれる方だと思います。大規模な組織やナショナルチェーンですと、本部主導のオペレーションになっていて、現場の仕事に制限のある会社も多いと思います。

 

ー ユニークな店長として注目されてはいないのですか。

 

日野 社内ではあんまりそういうことは言われないですね(笑)。

 

ー 少し前に開催された、日野さんが企画された交流会に参加させていただきましたが、出版関係の方や書店の方、編集者、あとは地域の方まで参加されていて、そのネットワークの広さに驚きました。参加された方に日野店長の評価を伺ったのですが、非常にユニークな存在だと皆さんおしゃっていました。

 

日野 それは有難いことです(笑)。でもこうして皆さんと交流が出来たのは本当にここ2年くらいの話です。参加して下さった方たちのほとんどは2年前には全くご縁がなかったですから。このときは、実際にお店によく来て下さったり、お店のことを気にかけて下さったりしている方にお声掛けをしました。私の背中を押してくれる方たちで感謝しています。

 

ー 業界の常識を知らないのですが、こういったことをする書店の店長さんは、普通いませんよね。

 

日野 おそらくそうでしょうね。ウチの社内でもいないと思います。

 

ー 日野さんはツイッターなどで発信されていますが、そういったことも社内では日野さんだけなのですか。他の店舗の方が真似されたりとかはないのですか。

 

日野 ウチの会社ではSNSに関しては各店対応なんです。強制も禁止もされていません。しかし、全く行っていない店舗もあって、お店によって取り組みの温度差はあります。更新の頻度も志津店が断トツで高い。ここまでやっている店舗は社内では確かにありません。まあ、志津店はちょっとやりすぎだと怒られることもありますが(笑)。

地元の人と繋がることが取り組むべき課題です

 

ー 今回の図書館とのイベントをやってみて、いかがでしたか。

 

日野 まず反省を言うと、トークの時間が短いとお客様や参加した知人に言われました。トークが終わったあと中だるみ感もありましたし。

 また、私がそれなりに持っている書店イベントのノウハウなども、もっと活かしていければ良かったと思っています。今回はあくまでゲストとして関わっていましたが、本当は一緒につくりあげるという意識でいた方がよかったと思います。このイベント自体は初めての開催で、当日悪天候のなか、まずまずの成功だったと言っていいのではないでしょうか。あとはこれを継続させることですよね。続けないと意味がないです。

 

ー イベントが終わったあと、お客さんから反応はありましたか。

 

日野 ありました。翌日に読売新聞に載ったことも大きかったと思います。

 西志津にご在住の方でこれまでこのお店を知らなかったという方がいらっしゃいました。皆さん、志津駅ではなく勝田台駅のほうへ行かれているのだろうと思います。

 一箱古本市に参加したときにも、ときわ書房はどこにあるのですか?と言われたことが少なくないので、我々が考えているよりも全く認知されていない、地元で知られていないのだなと感じました。SNSでは遠くの人や本に関心のある人とは繋がることができるのですが、肝心な地元の人と繋がることが思いのほか出来ていません。それを解消していくのが早急に取り組むべき課題だと思っています。

 

ー トークで日野さんがおもしろいエピソードを紹介されていましたね。ツイッターである本を紹介したら500のいいね!がついたのに、実売が1冊もなかったことがあったと。

 

日野 SNSで反応して下さる方と、来店されてお金を払って買って下さる方には距離があるのかもしれません。それがSNSの良くも悪くも手軽さなのだと思いますが、そういうことを踏まえ戦略を練っていかないといけないなと思っています。

 

ー 7月にまたイベントをやろうと動いているのですが、次はこんなことをしたいということはありますか。

 

日野 次回は、実行委員として参加したいですね。ゲストを招いたトークイベントは絶対に必要だと思います。トークの時間をもっと長くとって、あとは飲食ブースも欲しいですね。

 

ー 今回雨でしたが、出張ブースの売り上げはどうでしたか。バイトを置いたり経費もかかったりしていると思うのですが。

 

日野 雨のなかでの開催としては思った以上に売れました。これはうれしい誤算でした。また、新聞に載った効果かもしれませんが、イベント後からお店の売り上げも少し上がっています。イベント時の売り上げも欲しいのですが、それ以上にイベントに参加することで、普段の業務によい影響が出てくれればと思っています。イベントのためのイベントではなくて、お店の通常業務の広がりや売り上げに繋がるようなことがあればいいのだと思います。

ー 本屋をめぐる状況は厳しいようですが、今後の抱負をお聞かせください。

日野 地域のなかで本や読書のすそ野を広げていくことがイベントの役割だと思います。続けていくことで、地域の活性化になればと思います。

 裏を返せば、こうしたイベントをやらなければならないほど、本をとりまく状況は厳しいということでもあるので、こういう機会を通じて一人でも多くの人に本を手にとってもらいたいですね。

 教条的に上から目線で本をすすめることは逆効果ですから、「本は楽しいものなんだ」「世界が広がるんだ」ということを発信していきたいです。私自身も本が嫌いな子どもでしたから、人が本を読まないことを非難するようなことはしたくないのです。

本が売れていない、本屋があることが当たり前ではない、という前提から出発しないといけないと思います。無理強いをしない、もっと楽しいという側面から入らないといけないですね。

 お店を、本や本屋に興味がない人でも気軽に来られるようなところにできればいいと思っています。ちょっと雑誌を立ち読みするのでもよいですし、行き場所のない人が時間を潰すだけでもよいですし。とにかくお客様のご来店がないことには何も始まりません。その間口を広げるために、ウチのお店ももっとやらないといけないことがたくさんあると思っていますし、そのために考えていることもあります。

 

 当店も私も、まだまだ地域の信頼も業界の信用も得られていません。2年前から色々と目覚めたのであれば、ようやく3年生になれたようなものですから。ときわ書房志津ステーションビル店はこれからのお店です。

(聞き手 ブックリンクサクラ 河村淳司)

ときわ書房 志津ステーションビル店
〒285-0846 千葉県佐倉市上志津1663
電話番号 043-460-3877

営業時間 9:00~22:00(日・祝は21時まで)

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